スティーブ・ジョブズとCCRC(2)

 

「日本でイノベーションが起きにくくなったのは、才能の問題ではなく、“生き方”の問題といえる。」桑原晃弥(スティーブ・ジョブズ名語録)PHP文庫

経営の神様と言われた松下幸之助氏は、経営の根幹は人にあるとし、「松下電器はものをつくる前に人をつくる会社である。」と生涯を通じて、人をつくることの大切さを社員に訴え、自らも人材育成に力を注いできました。何よりも社員一人ひとりが「社員稼業」の主人公として、いきいきとやりがいを持って働くことを願っていました。

スティーブ・ジョブズも同じような視点を持っていたようです。たとえばジョブズは次のように言っています。「僕が得意なのは、才能のある人材を集め、何かをつくることです。アップルの方針をどうこう言うつもりはありません。・・・私の役割はここにいる才能ある人間たちをバックアップすることである。」

前回のブログでも「スティーブ・ジョブズは技術者か?経営者か?」ということを話しました。冒頭の桑原氏の本のはじめに次のような文章があり、感銘しましたので、主要部分を一部転記してみます。

 ジョブズはアップルを創業したが、技術は共同創業者のスティーブ・ウォズニアックの天与の才にお任せだった。お金は年長の成功者マイク・マークラに出してもらった。経営はペプシコーラ社長だったジョン・スカリーがレールを敷いた。

 ピクサー創業もそうだ。技術はCGの開拓者エド・キャットムルが担い、資金やマーケティングは巨大企業ディズニーが支えた。制作はCG映画の天才ジョン・ラセターに丸投げと言っていい。だが、そんなジョブズにすぐれたライバル企業が先を越され続けている。

例えば、iPodは、ソニーかコンパックがつくってもおかしくなかった。ソニーは、ジョブズがiPodは“21世紀のウォークマン”と認めるように、ウォークマンを発明した会社です。一方、コンパックはiPodの先駆け商品“パーソナル・ジュークボックス”の開発会社DEC

を買収しています。遡れば、パソコンの名機マッキントッシュもその革新的機能の多くはゼロックスのパロアルト研究所が開発したものだそうですが、ゼロックス自身はついに技術を製品として世に送り出すことはできなかったわけです。

「なぜ、それをジョブズは実現していったのでしょうか?」

 前述のピクサーの天才的CG技術者エド・キャットムルが、ピクサー創業以前、資金、機材、優秀な人材に恵まれた場にいたのに、ジョブズと出会うまでにすぐれた長編アニメーションがどうしてもつくれなかったことを振り返って、ジョブズ自身はその独走の秘密について次のように言っているそうです。

「多くの企業は、すぐれた技術者や頭の切れる人材を大量に抱えている。でも最終的には、それを束ねる重力のようなものが必要になる。」 重力とは、才能や能力というより、生き方だといっていいだろう。ジョブズは技術や経営の能力はなくとも、時に暴君、時に救世主として君臨し、敗残にも絶対屈しない。そんな生き方によって人を惹きつけ、知恵と情熱を引出し、技術と資金と人材を、足し算ではなく、かけ算にして世界を変えていく人間なのです、と述べ、以下のようにしめくくっています。

 日本はソニー、トヨタにおいて人材も優秀なのにモノづくりの力が弱くなった、それをしり目に、ジョブズはiPodiPhone、 iPad、ソフト面でもiTunesやピクサーの「トイ・ストーリー」・・・といったすごい世界を開拓している。

 両者をみると、日本企業には大切な何かが欠けているように思えてならない。それが「重力」であり、「生き方」ではないだろうか、と桑原氏は述べている。

 ジョブズのイノベーションについての素晴らしい分析と視点であると考えます。日本版CCRCを開発していくにあたり、スティーブ・ジョブズの生き方は多くの学びを教えてくれます。

スティーブ・ジョブズとCCRC

2011105日(水)、アップルの創業者スティーブ・ジョブズが逝去して1ヶ月が経とうとしています。この間、iPhone4Sが販売になり、評伝「スティーブ・ジョブズ」の売れ行きは記録的なものになるようです。また新聞、雑誌等でも多くの特集が組まれ、スティーブ・ジョブズは何者だったのかだけでなく、「何者」でなかったかが、私たちの大きなテーマとなっています。

また、ジョブズは勇気や希望を与えてくれる多くの言葉を残しており、それらはビジネス、イノベーション、マーケティングで悩む人々にヒントを与えてくれます。さらに、そんなジョブズを失った悲しみとともに、親交のあった友人たちが偉大なジョブズへ贈った言葉は感動的です。政治家からの言葉をまずあげてみます。

「スティーブはアメリカの最も偉大な革新者の一人だった。人とは違う発想をする勇気と、世界を変えられると信じる大胆さを備え、それを実行できる才能を持ち合わせていた。スティーブは毎日が人生最後の日だと思って生きようとしていたという。だからこそ、彼は私たちの生活を変え、産業の在り方を変革し、歴史上数少ない偉業を達成した―私たちの世界観を変えたのだ。」バラク・オバマ米大統領

「創造力とテクノロジーの力で、個々の経済分野に大変革を起こした彼の能力は、世界中のエンジニアやビジネスマンたちのインスピレーションの源だ。刺激を受け、刺激を与えたスティーブ・ジョブズは、われわれの時代の最も偉大な人物の1人として名をのこすだろう。」 ニコル・サルコジ仏大統領

 ビジネスの分野からは、次の言葉が印象的でした。

「スティーブ、良き先輩、良き友人でいてくれてありがとう。作り出したものが世界を変えられるのだと、教えてくれてありがとう。」faceブックCEO, マーク・ザッカ―バーグ

「スティーブは、個人的に助言や励ましをくれただけでなく、私たち皆に、技術革新が生活を変えられることを示してくれた。世界中がそうであるように、心から彼の死を惜しむ。」ヤフー元CEO、ジェリー・ヤン

最後に、アップル創業時の従業員ランディ・ウィギンドンの言葉です。

「スティーブを技術者として思い返すことはない。それが彼の得意分野ではなかったから。CEOとして思い返すこともない。彼が求めたのは名声でも権力でもなかった。むしろ私はたぐいまれな人間として彼を、思い出す。普通の人々が何を必要としているのかを理解し、人並み外れた偉業で彼らに刺激を与えた、一人の人間として。」
(出所:ニューズウィーク日本版、2011年、第2646号)

ジョブズの「自分たちのイノベーション(新しい価値の創造)が世界を変えられる。」というメッセージは私自身にも大きくに問いかけています。私はジョブズより1歳年上です。私は1992年に出会った米国CCRC(Continuing Care Retirement Community;日本訳は高齢者健康コミュニティ)に感動し、日本でCCRCを創造していくことに執心してきました。しかし、20年近くが過ぎているのに、何も創造できていない。たいへん残念です。ジョブズと私と何が異なるのか?私にもあまり時間がありません。ここで、「本当にCCRCは日本で必要なのか?」、「日本版CCRCは日本の高齢社会を変えることができるのか?」もっと真剣に考えなければならないと、ジョブズの死、言葉が教えてくれます。

スティーブ・ジョブズの冥福をお祈りするとともに、日本版CCRCへの挑戦を教えてくれたことに心から感謝します。 

calendar
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< May 2017 >>
selected entries
categories
archives
links
profile
search this site.
others